3.きっかけというものがあるはず。


 あたしの最大の『きっかけ』は、
 どう考えても『転校』であっただろう。

 
 当時、小学6年生。
 
 小学生最後の夏休みが終わって、たしか、
 あれは9月頃だったと思う。

 ある日突然、家族会議なるものが行なわれ、
 大好きな福岡を離れなければならないという、
 とても受け入れ難い事実を父親の口から告げられたのである。


 今思い返しても、
 あたしの中で最大の青春だった福岡での小学生時代。
 
 もう少しで卒業なのに。
 そんなこと、到底受け入れることなんてできない。

 
 家族会議で、
 隣にいた母親が正座をしている太ももに顔を埋めて、
 溢れる涙と声を押し付けたのを覚えている。

 それでも漏れる声を聞いて、
 きっと親もかわいそうに思ったに違いないと、
 今ではそう思えるものの、

 
 当時は、どれだけ親を恨んだか。

 
 その時点での恨みの気持ちは、
 引越しをした後、神奈川では倍増することになった。
 
 
 
 神奈川は、
 あたしが思ったより都会であった。

 比較的、緑の多いところに引越しはしたものの、
 住んでいる人たちは、都会人であった。

 それを知ったのは、転校先の小学校である。


 初めての転校。
 
 緊張していたからか、
 思ったより肝が据わっていたのか、
 気丈な自分であった記憶がある。


 その小学校は創立100年を越す古い学校で、
 校舎はもちろん築100年なわけはないが、新しくもない。
 

 初めての登校の日、
 校長室で母親と妹二人と三人で待っていると、
 バタバタと、向こうの方から近づいてくる足音。

 ガラッと校長室のドアが開いて、
 『イノウエサトコさんですよね?!行こうっ!』と声を掛けてきた。

 妹ではなく、絶対的にあたしの同級生であろう女子が、
 おそらく、5〜6人はいただろう。


 本当はドキドキしていたに違いない。
 
 でも、嬉しかった。
 不安な登校初日は、とても楽しい日になった。
 
 
 それは、『転校生』という、珍しい立場であったからであろう。

 幸か不幸か、『転校生』のあたしはちょっと目立っていた。


 そして、
 あたしがその学校で『楽しい』と感じたのは、
 1ヶ月もなかった気がする。 
 

 その初日に感じた楽しさはウソだったかのように、
 その学校の中身は、
 とてもとても説明できないくらい荒んでいたの。

 
 都会人の怖さ。
 
 福岡に済んでいた頃には知るよしもない、
 恐怖が待っていたんだ。

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2.それまでの生い立ち。


 出身は、鹿児島県。

 でも、幼稚園の途中で父親の仕事の関係で福岡へお引越し。 

 福岡の早良区という、
 今では地下鉄や大きな道路が通っているようだけど、

 当時は田んぼや遠くの山が見える、平地。

 あたしは出身の鹿児島ではなく、
 福岡で育ったと言っても過言ではない。


 夏休みは朝からラジオ体操。
 家から、そう…100mもあったかな?
 眠い目をこすりながら、
 まっすぐ行ったところにある、酒屋さんの隣を目指す。

 6年生になったら、
 下の子たちに出席のハンコを押す係りになる。
 そのハンコは、小さい駄菓子屋さんに売ってある、
 小洒落たハンコ。
 
 近所の大人も交じって、ラジオ体操。

 
 通学路でもある、そのまっすぐな道を曲がる角には、
 お地蔵様が二人。

 たしか、
 その二人は、
 紅白の金太郎の洋服みたいなものを身につけていた気がする。
 
 あたしは小さなお願い事をすることが何度かあったように記憶している。

 でも、しっかりとそのお地蔵様を見たことがあったか考えると、
 なかったような気もしていて、
 あたしは、
 『お願い事はしっかりしていたのに、薄情な小学生だったな』と、
 今思い返していたりしている。

 田んぼのカクカク曲がった道が、学校に着く手前にあるの。
 その田んぼには、
 おたまじゃくしはもちろん、アメンボやヤゴ、
 カブトガニなるものも生息していた。

 
 夏には、カゴいっぱいにセミを捕まえて、木にも登っていた。
 
 
 キレイではなかった川でもお構いなし。
 洋服のまま入っちゃう。
 橋の上から川を覗くと、フナがけっこう泳いでるのが見える。
 それを知ってるはずだけど、そんなのお構いなし。

 タニシが大量にドピンクのタマゴを川の塀に産み付けていたって、
 それを誤って踏んでしまったって、お構いなし。

 たぶん、女の子だという自覚もなかったのだろう。


 放課後は、
 当時流行ったインラインスケートや、バスケをしたり。
 暗くなってもウチに帰るのが嫌なほど、
 外で遊ぶのが好きだった。

 休みの日に、男女6人くらいで油山という山まで自転車を飛ばして、
 遭難してみたり、
 室見川や、ももちまで自転車で飛ばすこともあった。


 逆に、女の子っぽい遊び、
 例えば絵を描くとか、人形で遊ぶとかという遊びは、
 とても苦手で、
 絵が上手い友達を羨ましく思うこともあった。

 
 とにかく外が大好きな活発な女の子だった。


 秋には、その田んぼの脇にピンクや白いコスモスが咲くの。
 冬には、福岡でも雪が降る。
 
 

 あたしはとても素敵な町で育ったの。

 何より、暖かな人たちの中で育ったんだ。





 
 それが、一点。

 当時、
 人生について考えたこともない、幼かった田舎者のあたしに、
 とても大きな転機が訪れることになろうとは、
 これっぽっちも考えたことはなかった。

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1.イジメについて書こうと思った理由は。


 何も自分から過去を全部引っ張り出そうと思うことは、
 到底ない。

 でも、あたしの経験をここに記録していてもいいかなと、
 なんだか最近思うようなことがあったから。

 ちょっとだけ、
 ちょっとだけ、何回かに分けて、記録しようと思うんだ。


 やっぱり、
 人によって感じることや思うことは違うということを知ったの。

 だから、だからあたしは、

 『あたしが思うことはこんなことなんだよ?』という風に、
 
 ちょっとだけ、
 ちょっとだけ記録して、

 この日記をたまたま読んでくれた人が、
 『ふーん』とでも思ってくれたら…と思うの。

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